ピーターラビット(映画)
まず最初に誤解を解いておきたいのですが。
この映画はアクション映画です。
ピーターラビットといえば、お皿とかポットとかカレンダーとか、それらにプリントされた柔らかなタッチのウサギ達という印象である方が多いと思われます。
こういうの。(Wikipediaより)
そのピーターラビットが実写化されるということで、何をやってしまったんだというのが最初に聞いた時の感想でした。
あの独特の柔らかそうな質感がピーターラビットのウリだと思っていたので、それを捨て去ってTEDのような動くぬいぐるみ映画にしてしまえば魅力が損なわれると思いましたし、どうせ動物映画なんてお涙頂戴感動映画と相場が決まっています。(偏見。TEDを挙げておきながら。)
正直あまり興味も無かったので、普段なら見に行かないこと請け合いなのですが、TwitterのTL上では想定外の感想が散見されました。
・畜生 vs 悪
・火薬の使用量が動物映画史上最高
動物映画…動物映画?
あのほんわかイラストが、実写化されただけで火薬飛び交う戦場になる?
これらの謳い文句が気になっていたところに誘われたので、本日見に行くこととなり、大変面白かった(笑い転げるという意味で)ため一年ぶりに記事を書いている次第です。
私の感想を箇条書きにすると、
・ウサギ(ズートピア追放)
・ホームアローン(攻城戦)
・怒涛のテンポで襲い掛かる見どころと笑いどころと時々シリアス
・概ね北斗の拳
といった感じです。
細かく紹介してみましょう。
1.あらすじ(ややネタバレ気味)
主人公のピーターは行動力のある若いウサギ。ウサギ嫌いのマクレガー老人が所有する畑に時折家族と協力して忍び込み、野菜を失敬しては追われる日々の様子。捕まってあわやウサギパイという事態もありますが、マクレガーの隣人であるウサギ好きのビアという女性に助けられことなきを得ます。
ある日老人は不摂生がたたり死亡(映画内の描写がこれ)。彼の親戚であるトーマスという若い男がロンドンから引っ越してきます。
潔癖症でやや変人気質のトーマスですが、徐々にビアとの交流を深めていき、それが畑のことも相まってピーターの心を刺激し、ウサギ vs ヒトの戦争が勃発、エスカレートしていきます。
一連の流れの中で、ピーターが暴発させたダイナマイトがウサギの住処もろともビアの家屋を破壊。これをトーマスによるものと勘違いしたビアは激怒し、引っ越しを決意します。
自らの行いがビアに甚大な被害を与え、かつその罪をトーマスに押し付けた格好になり、結果としてビアがいなくなってしまう事態に際してピーターも(多少)反省。
一時的にロンドンへ戻っていたトーマスを、ロンドンまで追いかけて何とか和解して協力を仰ぎます。
果たして1人と1匹はビアを説得し、平穏な生活を取り戻すことができるのか?(ネタバレ:できる)
2.個人的な見どころ
2-1.ピーター達がずる賢い
物語はまず、マクレガー老人の畑に各種野菜を盗み出すためにピーター達が侵入するところから始まるのですが、侵入役はピーター、見張り役に妹3匹、投げ出したブツの受け取りに従弟と、役割分担がプロの傭兵団です。
全体を通してこの映画に出てくる動物達は、動物の皮を被った人間とでもいうべきキャラの立ち方をしています。喋るし、物を掴むし、ダーツをするし、簡単な電気系統の配線までやってのけます。感想の箇条書きで「ホームアローン」と書きましたが、野菜をパチンコでぶち当てる、鍬やウサギバサミを敷き詰めてトラップにするなど、あらゆる道具を小さな体で駆使して対抗していく様子はかなり近いものがあると感じます。
ピーター達はその中でも発想力と行動力がほとんど人間と言えるレベルなのですが、見た目や四つ足歩行は本物のウサギなので、その可愛さとのギャップがまたずる賢い。あざとい。
ちなみにずる賢さの代名詞であるキツネも出てくるには出てきますが、ちょっと毛をバリカンで刈られるくらいしか出番がありません。刈ってるのウサギだし。
2-2.随所のコメディ描写が秀逸
これはもう挙げていくとキリがないのですが、そもそもマクレガー老人の死因が不摂生であるというチョイスとその描写が笑いどころなのと、越してきたトーマスがドア枠を掃除するのに手と尻で雑巾がけしたり、ちょいちょい出てくるスズメ四羽組がミュージカル調に歌うたびに妨害されるお約束があったり、ウサギ3姉妹の末っ子(多分)がマサイの戦士めいていたり。説明しきれませんし、実際に見ないと伝わらない面白さが随所にあふれています。
この映画はアクション映画だ、と最初に述べましたが、雰囲気としては8割がコメディで、シリアスは3か所くらいちょこっとある程度です。
コメディにはメタ発言めいたものもあります。
トーマスはブラックベリーが体質的に無理という事実が判明した際に、ピーターがそれを利用する案を提示するのですが、その後カメラ目線で「真似しちゃ駄目だよ、電話とかしないでね」とウィンクするシーンがあります。
デッドプールが同時期にやってることへのオマージュなのかもしれません。
ちなみに、実際にトーマスの口へブラックベリーが放り込まれた時には、彼は慌ててエピネフリン注射薬を太ももに突き刺し、一瞬白目を剥いて昏倒するシーンがあります。
この点に関して「アレルギーの恐ろしさを軽く扱った」という物言いがついたとのことで、制作会社が謝罪する事態になったそうです。
個人的な見解としては「ピーターの発言が軽い」ものの、映画全体の構成としては「(危ないのは分かってるけど映画だから)電話とかしないでね」「アナフィラキシーを起こしたトーマスの描写が鬼気迫る」といった点で、むしろアレルギーの危険性を念押しするようにも思えます。
とはいえ、小学生がコメディの雰囲気でこのシーンを見た場合に「試しにやってみようぜ!」となるリスクはあまり低くないなとも思うので、アレルギーのくだりはあえて映画内には盛り込まず、(もし意図があったとすれば)教育的な内容はそれ専門の媒体に委ねた方が無難だったなとも考えます。
真面目な話おしまい。
2-2-3.千葉繁が濃い
これが言いたくてこの文章を書き始めたところがあります。
千葉繁というと、回を追うごとにテンションが上がっていく北斗の拳次回予告が有名です。
(最後まで見た後に2-3分冒頭からリピートを推奨します)
ピーターラビットにおける千葉繁の出番は、日付が変わった描写としての雄鶏です。この雄鶏の存在は物語の主軸に全くというほど関係ないので実質アイキャッチのようなものなのですが、演技の迫力(北斗の拳最終回レベル)のせいで凄まじい存在感があります。たかがアイキャッチもどきに一回あたり30秒近い尺が割かれているので、元の英語版でも結構な演技がなされていると思うのですが、もう千葉繁しか考えられない。この映画の面白かった点を円グラフで割り振るなら、2割は千葉繁が持っていく。それほどのものです。
ただ、これは上記の北斗の拳動画を見たことがあるから評価が水増しされているので、一般的な評点としてはもう少し下がると思います。劇場内でも全体的に笑いが起こるシーンだったので、知らない人でも持っていかれる度は高いのは間違いないのですが。
2-3.アクションが(割と)ハイクオリティ
映画内ではピーター達の素早い立ち回り、トーマスに掴まれたピーターの反撃、感電して吹っ飛ぶトーマスなど、動きの大きいシーンが結構あるのですが、特にピーターのすばしっこさが際立つような描写になっています。
両耳掴まれて宙ぶらりんの状態から殴る蹴るの暴行を叩き込むシーン、かなり流麗な動きでトーマスの顔面を連打して脱出してるのですが、あれ役者のリアクションどうなってるんだろうとつい考えてしまいます。
合成のはずのピーターの、素早い連撃に対する顔の動きや体の振りが全く違和感ありません。そのため、ピーターの存在がかなり自然に物語内の現実に溶け込んでいます。
暴力表現が自然すぎて存在感があるウサギというのもどうなんだろう、という気持ちもちょっとします。
3.総括
本作はコメディアクション動物映画として極めて高いレベルに纏まった作品だと感じます。現状、今年見た映画で一番面白いです。
コメディ表現の粒の細かさとテンポの良さ。CGのはずなのにリアル度の高いウサギと、役者との共存の自然さ。動きの派手さとそれを際立たせるカメラワーク。そして突然の千葉繁。
以上を一つの言葉に成型して、この文章の締めとします。
北斗の拳(ウサギ味)
ありがとうございました。