ルワンダ中央銀行総裁日記

 

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

 

 

Twitterでオススメされ、しばらく積んでいた本。

 

 日銀を経て国際通貨基金に勤めていた著者の服部氏が、アフリカはルワンダ中央銀行総裁として赴任した1960年代について綴った一冊です。

日本で暮らしており、経済の素養がほぼ皆無な私のような人間にとって、中央銀行とは「金利の数字を0近く(悲しい)で微調整している大きな銀行」という程度の認識ですが、それは日本の経済が(ルワンダに比べれば)まともに回っている証左なのかもしれません。

 

著者赴任時点でのルワンダの経済状況たるや、ちょっと想像しがたいものがあります。

政府の総資産のうち、半分は回収不能な債権です。それは資産なのか?と訊きたくなります。

国内消費目的でなく、外貨獲得のための主要産業はコーヒー豆ですが、内陸国の悲哀として海が遠く、1800kmの陸路輸送コストがかかるハンデを抱えており、それでいてコーヒー豆は世界的に供給過多で値は低く、今後の値下がりも懸念されます。

政府が発行する国債の利率について明確な決まりはなく、その時々の気分によって1ポイント以上増減します。

ベルギーの植民地から独立した関係で、国内にはベルギー系を中心に外国企業がありますが、彼らは元宗主国や本国の存在感を利用して税率などの点で特権的な地位を築いています。

 

さあこの状況からルワンダの財政を建て直しましょう!

まずは総裁お抱えの運転手がお釣りを誤魔化すところからです!

職員は日中お喋りに興じ、専ら派閥争いが好きなようです!

こちら今日の日報ですので目を通しておくとよいでしょう、日付は1週間前ですが!

ちなみに中央銀行の副総裁は辞意を表明しておりますぞ!

 

 

 

端的に言って、想像の埒外でした。

この惨状を相手に著者が固めた心意気を引用させていただきます。

”なるほど中央銀行の現状は想像を絶するくらい悪い。しかしこれは逆に見れば、これ以上悪くなることは不可能であるということではないか。そうすると私がなにをやってもそれは必ず改善になるはずである。”

骨太の精神力から成される各種の金融政策については、逐一文字数を割いて狙いと理由が説明されており、読み応えも十分です。経済の知識があった方が深いところまで理解できたかもしれませんが、理系の私が多少読み飛ばしても楽しめました。

 

本書の前半分以上は施行した金融政策に費やされており、その成果については終盤に準備段階に比べて半分程度の頁数しかありません。

逆にその構成が、丹念に敷き詰められた計画が一気に転がり出す爽快感にも繋がっています。

特に、見開きで示されている経済収支の推移表については、わずか五年で貿易総額が3倍になっている事実に瞠目せざるをえません。

 

服部氏は言わずもがな日本人ですが、ルワンダのためを最優先としてあらゆる困難を解決していきます。

ただ経済を発展させるためだけでなく、その繁栄が持続し、かつルワンダ人自身の手によってなされるように心を砕く様は現地の人々も、読者の心も打ちます。

 

全体的に淡々と進んでいく本書ですが、読み終えるとコツコツ仕事することの偉大さに触れることが出来ます。

仕事熱心ではないけれど、適度なモチベーションも足りない時などにおいかが?